児童文学作家 那須田 淳氏(2005)

(略歴)

1959年、静岡県浜松市生まれ。早稲田大学卒。「鬼ケ島通信」同人。
大学卒業後、まもなく執筆活動に入り、88年にポプラ社よりデビュー。
92年の夏にドイツのミュンヘン国際児童図書館に、日本の児童文学作家としてヨーロッパの作家たちの交流のため奨学研究員(三ヶ月)に招聘される。その後、95年からドイツのベルリン市に在住。
90年、97年に全国感想文コンクール課題図書に選定、04年に産経児童出版文化賞受賞。05年に坪田譲治文学賞受賞。
2004年度静岡県芸術祭審査委員。日本ペンクラブ会員

主な著作に、絵本「魔笛」(講談社)、「おれんちのいぬチョビコ」(小峰書店)など。ファンタジー童話にバイエルン地方の森を舞台にした「ボルピィ物語」(ひくまの出版)、青春少年小説(ヤングアダルト)に「グッバイバルチモア」(理論社)や「スウェーデンの王様」(講談社)、「ペーターという名のオオカミ」(小峰書店)など多数ある。また翻訳には、木本栄との共訳で、「ちいさなちいさな王様」(講談社)や「ケストナーの伝記」(偕成社)、また単独訳で絵本など多数ある。

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【インタビュー】


2005年12月2日、午前中にインターナショナルスクール・オブ・デュッセルドルフのミドルスクール、6〜8年生(日本では、小6〜中2に該当)の生徒たちと“書くことについて”のワークショップを行い、午後は講演会を行うという、多忙な日を過ごされました。そしてその後、私たちのインタビューに応じてくださいました。
(★ 講演会の内容は、インタビュー記事のあとの“講演会内容の要約”をご覧下さい。)

<一日を終えて>

Q)
インターの生徒達へのワークショップを終えて、子供達の印象はどうですか?
A)
インターの子供たちは積極的で、自分というものをしっかり持っており、自分が聞きたいことを聞き、自分の意見を言うことに慣れているように思いました。午前中には、課題に自主的に取り組み、”自分にとっての作品感”をうまく表現して文章を書いていたと思います。

<活動について>

Q1)
那須田さんが、児童文学に進まれた経緯についてお話してください。
A1)
自分としては、とくにジャンルとして児童文学に限定しているわけではありません。「子供の心」あるいは「少年の心」をテーマに絵本から小説までを書いているというふうに思っていただければありがたいです。いわゆる児童文学というと読者は子どもだけになってしまいますが、僕の場合は大人にも読んでもらいたいという意識が強いです。そういう意味では、『ペーターという名のオオカミ』は、読者年齢を考えず、自分の思っていることを自由に書くことができた作品です。近頃、子供も多様化する時代の中で、”子供とは何か”を見つめ、世界がもっと子供に目を向けていかなければならないと思います。同時に、大人がかつて通り過ぎてきた子供時代を振り返りながら、失いかけていた大切なものを思い出してもらえたらとも思います。
Q2)
ドイツを選ばれたのはなぜですか?
A2)
最初は、学生時代に両親の仕事でミュンヘンの国際児童図書館で原画展を行った時に手伝いをしまして一ヶ月ほど滞在したことがあります。そのときミュンヘンの郊外の森に宿をとったのですが、二週間過ごしたことがあります。これはのちに、”ボルピィ物語”が生まれるもととなりました。ボルピィ物語がきっかけで、1992年、ミュンヘン国際児童図書館の奨学研究員として招聘されたので、ミュンヘンに4ヶ月滞在したこともあります。
これらの経験を通して、ドイツは生活しやすいと思ったこと、またインターナショナルなのに田舎みたいな面があり、外国人に対するプレッシャーも少なく、清潔であったこと・・・等がドイツで活動を始めた理由でしょうか。それから、ミュンヘンの国際児童図書館に滞在していたときに、ケストナーを研究テーマにして感銘を受け、人間ケストナーに興味があったこともあります。
Q3)
では、その中でも、なぜベルリンを拠点にしようと考えたのですか?
A3)
文化的な面など、町が活発に動いている躍動感に”物書き”として今でもとても興味があります。そして、例えばベルリン中央駅など、都市変化のスケールの大きさには驚きましたし、東西の壁崩壊などで見られる自然保護と自然破壊の複雑な関係、など考えさせられました。
Q4)
現在、取り組まれていることは何ですか?
A4)
今、長編小説4冊の執筆と構想をしているところです。来年には仕上げたいと思っています。青春時代がテーマになっていて、ストーリーはそれぞれ違いますが、その中の1冊は初めての恋愛小説です。でも、僕が書くと、大人の恋愛ではなく、少年の恋愛になってしまうんですよね(笑)。
Q5)
今後の活動の御予定をお聞かせください。また、那須田さんの本がドイツ語で出版される御予定はありますか?
A5)
大人のための絵本を書いてみたいです。
今まで、ドイツの画家、ミヒャエル・ゾーヴァさんに挿絵を書いてもらったり、ゾーヴァさんの絵に僕が文章をつけた本を出版しましたが、ゾーヴァさんはお忙しいので、他の画家の方と組むことは大いに考えられます。例えば、実際に2月には、僕の文章に、フランス人画家のエリック・バトゥーさんが挿絵を描いたくれた絵本『すいようびくんのげんきだま』というのが講談社から出版されます。
また、ドイツ語での出版ですが、今のところ予定はありませんが『ペーターという名のオオカミ』には、何社か興味を持ってくれていますし、日本の文学を海外に広めようという動きが出てきていますから。

<生活について>

Q1)
お子さんが生まれたことで何か変わったこと、また、作品への影響はありますか?
A1)
家族という発想が生まれ、”父親”という意識が自分の中に出てきました。子供がいることで、生活に張りが出てきましたし、束縛される分、価値があると思います。孤独ではないし、老後が楽しそうだな(笑)。
子供がいると、毎日がエピソードの連続ですね。原稿は日常生活がもとなので、意識はしていないけれど、気付かないうちに影響を受けているかもしれません。
(★ お子様たちとの楽しいエピソードなどは、ブログをご覧下さい。)
Q2)
日本への思い、日本に帰りたいと思うことはありますか?
A2)
永遠の課題かな(笑)。
妻はドイツ生活が長いし、僕の作家という仕事もインターネットの普及などからドイツでも楽にできるようになりました。子供の教育も含めた子育て、生活環境などを考えると、今はドイツの方が自分達には良いと思っています。
Q3)
では、今後も生活・仕事の拠点はベルリンですか?
A3)
今のところ、住んでいる家の住み心地がよく、ベルリンも気に入っています。子供が大きくなったら、もう少し部屋数のあるところへ引っ越すことがあるかもしれませんが、でもきっとベルリン内でしょう。
Q4)
ラインブリュッケと読者の皆様へのメッセージをお願いします。
A4)
国際化しているからこそ、日本人であることを忘れずに大切にしてほしいと思います。
また、ラインブリュッケは、日本在住の日本人の方にも見てもらうために、ドイツ発で日本へのメッセージをどんどん発信し、今後も継続して欲しいと思います。

<インタビューを終えて、スタッフの感想>

  今回初めてお目にかかりお話させていただきましたが、那須田さんはご家族をはじめ人との関わりをとても大切にされ、御自身の身近にある小さなことから、地球規模の大きな問題まで目を向けていらっしゃる方だと感じました。また、とても気さくな方で、インタビューは和やかな雰囲気の中で進み、いつまでもお話していたいと思えるものでした。那須田さんご自身が、作品のテーマとなる「少年の心」を幾つになっても忘れずに大切にしていらっしゃるのだなぁという印象を持ちました。

 最近、那須田さんの小説『ペーターという名のオオカミ』を読みました。話の筋は決して難しいものではありませんが、人間の心の深さを巧みに表現され、地球上や人間社会の永遠の課題がいくつも盛り込まれた本で、子供も大人もそれぞれの年齢の視点で読めるのではないでしょうか。一度読み終えても手元において、また読み返してみたくなるような本でした。

 ドイツに来る前に那須田さんの小説、訳本を読んだことがあった私は、那須田さんがインターナショナルスクールで講演会をなさると聞いて、「ラインブリュッケのためにインタビューに応じていただけないかしら・・・」と願っていました。今回その願いが叶い、大変嬉しく思っています。
快くインタビューに応じてくださった那須田淳さん、本当にありがとうございました。
また、講演会内容の掲載を許可してくださったインターの先生、那須田さんと私たちの間を取り次いでくださった先生、そしてインタビューのためにお部屋を用意してくださった秘書の方に、この場をお借りしてお礼申し上げます。ありがとうございました。
最後に、那須田淳さんの今後の益々の御活躍をお祈りしております。


【講演内容の要約】


@ 児童文学と一般文学について

那須田さんは児童文学作家として紹介されることも多いが、児童文学といっても幅が広く、また出版社の特徴に結び付けられることが多く、作家はそれほど明確な定義付けを持っているものではない。
1歳〜18歳を対象にしたものを「児童文学」と呼ばれ、その中で12〜13歳頃を「ジュニア文学」、12歳〜18歳を「ヤングアダルト小説」または思春期・青春文学という。またヤングアダルト小説は一般文学としても考えられている。那須田さんはヤングアダルト小説を目指しており、そのテーマの中心は「少年の心」。彼の作品『ペーターという名のオオカミ』は産経児童出版文化賞(児童文学)と坪田譲治文学賞(一般文学)の2つの分野での受賞となった。



A 作品のメインテーマ「少年(青年)の心」「子供の心」について

彼の考える「子供の心」とは、必ずしも汚れのない純粋無垢な心ということではなく、子供も大人と同様に欲望や狡さもあるけれども、大きな違いとして、正しいことは正しいと気付き、辛いときには辛いと思うように、自分の心に素直であるということ。
子供の視線から見たという点では、オー・ヘンリーの『賢者の贈り物』やサリンジャーの『ライ麦畑でつかまえて』、宮崎駿監督の『千と千尋の神隠し』などに通じる。

<ケストナーとの出合い>
1992年にミュンヘンでの研修中にケストナーのエッセイ『ゴルディウス結び目』を読み、武力で問題を解決するのではなく、社会や社会の矛盾に正直に向き合おうとする「少年の心」を発見し、感銘を受ける。これ以降、ドイツ及びケストナーという人物への興味が湧き、これまでの「少年を主人公にしたストーリー」からテーマとしての「少年の心」へと導かれる。

<少年時代の経験>
詩人で作家でもあるお父様のもとで、変化に富んだ日々を送る。作家というものを自然に受け入れていた。
父親の仕事や性格上、多くの大人と接する機会が多く、そういう人達の行動や言動が彼にとっては「不完全な大人像」として映る。大人だからといっていつも正しいわけではなく、先生も聖人ではなく、僕達子供の延長線上の人だと気付く。



B 作家を志す

中学時代に図書委員をやったことで、好きな本をリクエストしたり、新刊を一番に読むことが出来たので、3年間で約1000冊程読んだことは大きな意味があった。
中学3年の時にもの書く仕事をしようと思ったが、現実は厳しいと母親に反対された。
その後、高校時代にはシナリオライターを目指し、大学生になって改めて作家を目指そうと決心。


C 文章を書くのは苦手と思っている方へ

難しく考える必要はないが、スポーツなどと同じで文章にも技術がいる。ジャンルにとらわれず、たくさん本を読むことと、習練することが必要。文節に区切って読む練習を続けていくと文章の組み立てが分かるようになり、語彙も増え、いろいろな文章が理解できるようになる。
読書も同様で、読みなれるということが大切。コツは無理せずに好きな本から読み始めて、とにかく続けること。


D 中学・高校生に望むこと

みんなそれぞれの才能を持っている。その才能を子供時代に見つけることは難しいが、いま好きなこと、興味があることは何か、「人間にとって何が幸せか」等を中学、高校、大学時代を通してじっくり考えて欲しい。
デュッセルドルフで暮らしている子供達は、外国で生活するというそれだけでストレスを感じて大変なことも多いだろうが、それ以上にメリットもあると思う。
外国で生活することを良い機会だと考えて、外国の空気や言葉を通して文化を知ろう。
異文化を知ることはグローバルな視野を身につける基本であるし、実際に起こっている国際問題(戦争や宗教・民族による違いなど)の本質も見えてくるだろう。


<生徒達の質問より>
Q1)一つの作品ができるのにどれ位の時間がかかりますか?
A1)本によって違います。『少年のころ』は一日だし、『ペーターという名のオオカミ』は構想から完成まで7年かかりました。

Q2)一番気に入っている作品はどれですか?
A2)『ペーターという名のオオカミ』かな。今までと違って児童文学をあまり意識せずに自由に書けたので。

Q3)日本で書くのとドイツで書くのとで違いはありますか?
A3)言葉や文体が変わることはないが、自分の頭の中にあるイメージや風景がドイツのものか日
   本のものかどうかで、雰囲気が変わってくるかな。

その他、「年収はいくらですか?」「作家ってベレー帽をかぶるんですよね?」などなど、子供達のユニークな質問にも優しく丁寧に答えて下さいました。